平倉社会保険労務士事務所
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社員の経歴詐称 どう対応?

採用面接時に経歴を偽って入社した社員がいる。

このような相談はよく受けます。

そして、「経歴」といっても、さまざまなタイプがあります。

・学歴を偽る(大学名、卒業していないのに「卒業」と記載)
・職歴を偽る
・職歴は偽っていないが、業務の実績などを過大に記載するなどの偽り
・病歴を偽る 申告しない
・犯罪歴を申告しない

企業側の関心は、「懲戒解雇ができるのか」かもしれませんが、詐称の内容や程度と業務の内容によって変わってきます。

今回は、これまでの裁判例をもとに解説していきます。
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〇採用内定取り消しのケース

採用内定取り消しに関する裁判例は、1979年(昭和54年)に最高裁で判決が出た、大日本印刷事件があります。

そこでは、採用内定取り消しが認められるケースとして、以下の判断基準を示しました。

「採用内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合」

実はこの判例、新規学卒者が対象でした。新規学卒者で、卒業後は入社するという誓約書を提出すると、もう就職活動ができません。

そこで採用内定取り消しとなれば、卒業後に入社できる会社が無く、その後の人生に大きな影響が出てしまいます。

そのため、「社会通念上相当とて是認することができる場合」とは言えず、内容内定取り消しが無効になる場合が多くなりました。

ただ、最近は中途採用も盛んで、中途採用者の採用内定取り消しと言う問題も多くなりました。

その中で、2024年(令和6年)12月に出された判決では、大日本印刷事件での判断基準加え、以下の解釈を加えました。

「虚偽の事実を記載しあるいは真実を秘匿した事実が判明したのみならず、その結果、労働力の資質、能力を客観的合理的に見て誤認し、企業の秩序維持に支障をきたすおそれがあるものとされたとき、または、企業の運営にあたり円滑な人間関係相互信頼関係を維持できる性格を欠いていて企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められる場合」
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〇在籍社員の場合

上記の解釈は採用内定のケースとは言え、在籍社員にも応用できます。

虚偽の事実記載により、「労働力の資質、能力を客観的合理的に見て誤認し」というのは、例えば、過去の営業実績で、「年間新規獲得〇〇社、売上○○万円」と職務経歴書に書かれていて、それを信じて採用したような場合が有ります。

ただ、期待通りの実績があげられなかったというだけでは解雇はできず、「企業内にとどめておくことができないほどの不正義性」が無くては、解雇有効にはならないでしょう。

どの程度の不正義性かは難しいところがありますが。

また、前提として、会社がしっかりと経歴について調査をしていたかということも問題になります。
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〇健康に関する隠避、虚偽申告

一番多い相談は、健康問題に関する経歴です。

「精神疾患で通院歴があるのに、面接時に言ってこない社員はどうとたらよいのか」

というような相談です。

病歴は要配慮個人情報です。本人の同意なく取得することはできません。

面接の段階でしつこく質問することは、避けるべきです。

この問題は、採用面接時では把握しにくいと思っておいた方がよいでしょう。

そして、経歴詐称ととらえるのではなく、実際に影響が出た場合に対応する方が良いかもしれません。

多くの企業では就業規則に休職の制度を規定します。

それに則り、休職期間が満了しても出勤できない状況であれば、退職として問題ありません。

平倉社労士 東京都文京区の社会保険労務士 就業規則、雇用安定助成金

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