毎年、年末に行われる労働判例の学習会。
その年に出た最高裁判例を中心に、丁寧に解説していただき、たいへん勉強になります。
昨年は参加できなかったので、2年ぶりの参加になります。
〇事業場外みなし になるのか?
最初の判例は、以前このブログでも触れた、事業場外みなし労働が適用されるかどうかの判例です。
担当する外国人技能実習生の訪問し、その行動記録を業務日誌に詳しく記載し、会社に提出していました。
それをたどれば、いつ、どこで、誰と会っていたなとせ、時間までわかります。
会っていた人に確認を取れば、それが事実かどうかがわかります。
事業場外みなし労働を定めた労働基準法第38条の2では、
「労働時間を算定しがたいとき」
に、みなし労働時間になるとしています。
それ以外の時は、実際に勤務した時間を労働時間とし、1日8時間を超えていれば、割増賃金の支払い義務があります。
本件は、労働者が、業務日誌で労働時間がわかるのだから、「労働時間の算定がしがたい」とは言えず、事業場外みなしには当たらず、割増賃金等の支払を求めた裁判です。
一審、二審は労働者の主張どおり、事業場外みなしには当たらないとしました。
しかし、最高裁はこれを認めず、判決を高裁に差し戻しました。
旅行の添乗員で同じような争点となった裁判で、最高裁は、今回とは反対に
「労働時間の算定がしがたい」とは言えず
と判断したことが有ります。
その違いは、前者は労働者に時間の裁量が有ったのに対して、後者は裁量が無かったことかもしれません。
旅行の添乗員は、ツアーのスケジュールが最初から決められていて、その通りに行動しなくてはなりませんから。
〇企業は業務災害の認定を覆すことができるか?
労災給付の元になっている労災保険料率、これは業種によって決まっています。
ただ、一定の人数を超えた場合(業種によりその人数は違います)、労災給付額の多寡によって、保険料率がプラスになったりマイナスになったりします。
これをメリット制といいます。
労災給付額が少ない企業は、労災保険料率が下がるのでメリットがあります。
一方、労災給付額が多い企業は、労災保険料率が上がってしまうので、デメリットになります。
労災給付額の多寡は、企業が支払う労災保険料に跳ね返ってくるのです。
労災の認定がなくなれば、その分労災給付額が少なくなり、労災保険料率が下がる要因となります。
それゆえ、企業は労災認定の取り消しを提訴できるかが争点になった判例です。
最高裁は、この企業は
「法律上の利益を有する者」に当たらず、労災支給処分の取消しを求める原告適格を有しない。
としました。
労災申請は、通常は企業が書類を作成し労基署(または労災指定病院を経由する場合もあります)に提出することによって行います。
ただ、申請者はあくまでも労働者です。企業は、労災の状況や、この労働者が実際に自社で働いている事を証明することはありますが、企業が申請の当事者ではありません。
当然の判決に感じます。
〇割増賃金の算定基礎に入る手当は?
この判例は最高裁ではないのですが、注目しました。
バスの運転手で、終点到達から次の便の運転までにある長い休憩時間(中休み)の補償として1回につき240円を支給している特殊勤務手当は割増賃金の算定基礎に入るのか。
また、そもそもこの時間は休憩ではなく待機している時間なので、労働時間ではないのか
ということが争点となりました。
割増賃金の算定基礎となる賃金は、労働基準法第37条で「通常の労働時間又は労働日の賃金」となっています。
これは、所定労働時間内、所定労働日内、言い換えれば、残業でも休日出勤でもない時に対する賃金です。
そして、「通常の労働時間又は労働日の賃金」は、原則として全て算入するのですが、以下の賃金は除外してよい事が労働基準法やその通達に書かれています。
家族手当 通勤手当 別居手当 子女教育手当 住宅手当 臨時に支払われる賃金
1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
そして、これは限定列挙であり。これ以外の手当、賃金は参入しなくてはなりません。
また、家族手当という名目で支給していても、「家族手当として従業員全員に2万円支給」というように、家族と関係ない要件で支給している手当は、割増賃金の算定基礎に算入しなくてはなりません。
限定列挙されている家族手当は、家族の人数や続柄によって支給したり金額を決めたりするものです。
争点となってる特殊勤務手当は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」にあたり、除外していい限定列挙のどこにも該当しないので、割増賃金の算定基礎に入れるという判決になりました。
また、この「長い休憩時間」とされていた部分は、労働からの解放が保証されていない ということになり、労働時間になるという判決になりました。
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このほかにも、年次有給休暇の時季変更権や団体交渉拒否の判例などを丁寧に解説していただき、とても有意義な学習会でした。
平倉社労士 東京都文京区の社会保険労務士 就業規則、雇用安定助成金